清音、澄み切った静寂。

陰影、包み込む暗闇。

月下、見下ろす満月。

そして、月夜、佇む、その少女。

 

 

 


 

「月夜、佇む、その少女」



 

 


学校の屋上。

そこに存在するのは月に照らされる一人の少女。

澄み切った静寂は彼女を守護し、

包み込む暗闇は彼女を際立たせて、

そして月夜は彼女を作り出す。

 

「忘れ物…………したの?」

 

幻想的な光景の中、舞台に立つ主役は語りかける。

その先にはひとりの少年。

 

この物語の主人公、名を『小太刀 煉』

 

「あ、ああ。そんなところだ」

 

彼が訪れた深夜の学校。

誘われるように向かった学校の屋上。

そこに待っていたのはこの世のものとは思えないほどの美しさを持った少女。

長き黒髪は彼女の歩きに会わせて月の耀きを跳ね返す。

微かに浮かべるその微笑、千の男をも惑わしそうな魅力。

特筆すべきは―――宝石すら霞んで見えるほどの緑色の瞳。

 

「そう………」

 

少女は静かに少年に歩み寄る。一歩、また一歩。コツ、コツと綺麗に音が響く。

滑るように彼女は少年―――煉の前にたち。その首をかしげながら尋ねる。

 

「忘れ物、見つかった?」

「見つかった、かな」

 

煉は微笑に苦笑を返す。

少年は少女に恋をした。

埋もれるようにある恋の中で、少年は人生を賭けられるものを見つけた。

それは―――人外なるものへの恋。

月光を背負い、闇を纏い、静寂を従わせる彼女。

 

名を―――『月島せつな』

 

太陽の無遠慮な光とは違い、月は穏やかな笑みを浮かべてほのかな光を放つ。

まるで自らの子を慈しむかのように。

 

「よかったね………」

 

せつなの口から言葉か漏れる。ふわりとした、闇夜に融けていく声が辺りを満たしていく。

天にまで届くような小さな声は、総ての呪縛から解き放たれた鳥の様。

静かに、煉の心に染み渡っていく。

 

「そうだな、本当に良かった………」

 

せつなの手、煉の頬を包み込む。

瞳、閉じられる。

ほのかに赤く染まる唇、煉を求めて向けられる。

煉、優しくせつな抱きその唇を重ね合わせる。

二人を月が、闇が、静寂が、彩っていた……………。

 

 

 

月夜にせつなは耀く